先生、
人間らしさってなんですか?

気持ちに素直に、自然体で生きていたいけれど、そもそも「人間らしい」ってどういうこと?
直球すぎる質問に、文化人類学と精神医学、動物行動学の識者に語ってもらった。

先生、
人間らしさってなんですか?

気持ちに素直に、自然体で生きていたいけれど、そもそも「人間らしい」ってどういうこと?
直球すぎる質問に、文化人類学と精神医学、動物行動学の識者に語ってもらった。

Column

2020.02.21

過去と未来、私とあなた。深く広く、巡る思考。

小林 朋道TOMOMICHI KOBAYASHI

動物行動学者

1958年、岡山県生まれ。公立鳥取環境大学環境学部学部長・大学院研究科長・教授。ヒトを含むさまざまな動物について、動物行動学の視点で研究している。著書に『ヒトの脳にはクセがある―動物行動学的人間論―』(新潮選書)など。

ヒトがほかの動物と違うところ? 短い文章ではなかなか難しいけれど、比較的重要性が高いと思う「違うところ」をふたつあげよう。ひとつ目。言語を考えるとわかりやすいかもしれない。「私の研究対象はモモンガだ」、「私の研究対象はモモンガだということを学生たちはみんな知っている」、「私の研究対象はモモンガだということを学生たちはみんな知っていることを妻に話した」……。ヒトはこのように、「文」を名詞と同じように文の中に埋め込んで、情報の階層と話題の範囲をどんどん拡大していくことができる。その話題の範囲には現在のことだけではなく、過去も未来も含まれる。これは、言語自体の力、そして言語の背後に控える脳の情報処理の力によって可能になる。イヌは、その日の夜にもらえるドッグフードのことは思考の要素に入れることはできるだろう。でも、1カ月先のドッグフードのことを思考することはできない(〝階層性〞や〝範囲〞の限界)。いつも食べているドッグフードが、どこで製造されているかについては思いを巡らすことさえできないはずだ。

ヒトは、ほかの動物と比較して、こういった、とびっきり深い「情報の階層」と、とびっきり広い「話題の範囲」を処理できる脳の性能にも支えられ、ロケットで月へ行くことができた。ふたつ目。ヒトはほかの動物と比較して、「相手が思っていること」を推察することに卓越した能力と、推察しようとする強力な自動作動機能を備えた脳を持っている。この相手の心を読む能力が自分の心に向けられた時に体験する感覚を、われわれは「自我意識」と呼ぶこともある。ひとつ目とふたつ目の能力は、われわれホモサピエンスの歴史の9割以上を占める、100人程度の集団をつくり狩猟採集を行いながら生きていた生活の中で、生存・繁殖にとって特に重要だった。そして、ふたつの能力は互いに絡み合いながら作動し、愛や友情、憎しみといった心理活動を生み出している。協力したり見通しを立てたり、戦略を練ったり、大規模で複雑なヒトらしい行動を可能にしているのである