人間らしさを見つめる、
これからのクリエイティブ。

選びきれないほどのモノや情報であふれたいま、私たちに本当に必要なものとは?
人の気持ちや心地よさ、人間らしい感覚に立ち返ったクリエイションを行う、20組を紹介する。

人間らしさを見つめる、
これからのクリエイティブ。

選びきれないほどのモノや情報であふれたいま、私たちに本当に必要なものとは?
人の気持ちや心地よさ、人間らしい感覚に立ち返ったクリエイションを行う、20組を紹介する。

Creator

2020.03.19

人間の感覚を尺度に、本質を捉えた表現を。

石井勇一YUICHI ISHII

アートディレクター

1979年、東京都生まれ。デザイン事務所に13年間勤務したのち、広告代理店を経て2013年独立。エディトリアル、アドバタイジング、パッケージ、ブランディング、ロゴなど幅広く手がける。16年、D&ADアワードグラフィックデザイン部門ブロンズ賞を受賞。

アカデミー賞受賞作の映画『ムーンライト』(2016年)や『君の名前で僕を呼んで』(2017年)の日本版ポスターやパンフレットなどを手がけた、アートディレクターの石井勇一さん。「目の前の対象に真摯に寄り添って、その本質的な課題の解決方法を見出す」というのが彼の信条だ。その想いは、スタイリストであるパートナーのふくしまアヤさんとともに設立した、事務所の屋号にも込められている。

「人の心を動かす提案をするためには、量産やこなすための作業であってはなりません。だから〝AUTO(オートマティック)〞の逆の捉え方として、逆さ読みした〝OTUA(オトゥア)〞と名付けました」

これまで手がけてきた映画フライヤーの数々。2019年に公開された『永遠に僕のもの』をはじめ、話題作ばかり。

人の心を動かすための、
探る作業とニュアンス追求。

そのために欠かせないのが、徹底的なリサーチだ。実際のデザイン作業は全体の約2割。対象にまつわる背景から、実情、社会問題、今後の視野までを、決して「他人ごと」「仕事ごと」にはせず、「自分ごと」として向き合い、思考することに重きを置いている。
 とはいえ、デザインに対しても「心を動かす」ためのこだわりは尽きない。大きなポイントは、人間の感覚だ。
「色でもレイアウトでも、デジタル上の〝数値〞というのは、あくまでコンピューターなどのツールを使うための尺度でしかないし、ソフトウェアが自動的に揃えた配置が正しいとも限らない。『ベストはこれ!』というわずかなニュアンスの差を見定めるには、人間の感性や目線が必要不可欠。デジタルツールがなかった時代には当たり前だった、〝見た目の印象〞に拠ったセンスが、本当は正しいんですよね」

そんな石井さんのアートディレクションは、世界的デザインアワードとして知られる、ロンドンのD&ADアワードでも評価された。受賞した作品は、重要なコミュニケーションツールとして独立当初から大切にしている「名刺」のデザインだ。この受賞によって、「本質を捉えた表現は、言葉を超えたコミュニケーションを可能にする」と実感できた。
「たとえば光や希望などのニュアンスを色に含ませることで、その先の未来を想像しやすくなるというメソッドがあります。子どもの頃に観た映画が、大人になった時には解釈が変わってくるように、その時点で完結したものではなく、〝生き続けるナラティブな表現〞をしていきたいですね」

陽光差すオトゥアの事務所。「ここに越してきてから、環境がなにより大事だと気付いた」と石井さん。事務所の看板猫ものびのびしていた。

海外の画材屋で購入したものなど、多彩なタイプの筆記具を用い、アナログな作業を行うことも多い。